【インタビュー】生活の中に美術作品がある風景を自然なものに―認定NPO法人新潟絵屋 代表・砂丘館(旧日本銀行新潟支店長役宅) 館長 大倉宏氏

  • 投稿日:
    2017.07.19(水)
  • written by:
    高橋 郁乃
  • 記事カテゴリー:
    インタビュー
  • ジャンル:
    美術
新潟市内で文化芸術に触れる場として、美術に限らず地域の伝統芸能も取り上げるなど積極的に事業展開をされている新潟絵屋と砂丘館。市内における美術を中心とした文化芸術活動の熱を上げるには欠かせない存在の一つである。
これから新しい展開をするとの情報を耳にし、インタビューをさせていただくと、地域における画廊の役割が見えてきた。
他にはない画廊を。
―大倉さんは新発田市出身で新潟市に来られて今秋で34年を迎えるとお聞きしました。新潟絵屋、砂丘館を運営されるきっかけと活動内容を教えてください。

大倉:「下(しも/下町:信濃川河口流域地域のことで、江戸時代には北前船が寄港し、町屋や廻船問屋などが湊町として栄えていた)」という所は古い建物やまちなみが結構残されているところで、そこで何かやりたいと思ったメンバーが集まって始めたというのがひとつ。画廊というのは私の提案でした。当時まだ新潟には画廊が少なくて。私も画廊で絵を買うのが好きだったから、自分で買えるお店を作りたいな、というのが個人的な想いでした。と言っても、時々しか展示をやっていない画廊だとなかなか人も来てくださらないので、常にやっているという形で、月3回企画展ということで始めて、今年で17年目になります。

―企画展を月3回されているということですが、一貫したテーマや気を配られていることはありますか。

大倉:なるべく多様な、そして質の高い企画ができればというのがベース。画廊が少ないのでいろいろな画廊が一つの画廊に入っているようなものを意識して、複数名のメンバーが集まって、各自がそれぞれ思いを持ち寄って企画する、ということで始めました。美術の世界にいた私と、ほかデザイナーとか大工とか家具職人とかカメラマンとか俳人とか、イベントプロデューサーといった人たちが集まりました。だんだんみんな30~50代になり自分の仕事が忙しくなってしまったので、最近私の企画が多いです。なので個人経営の画廊みたいに思われることがあるのですが、なるべくそれを変えていこうと、来年から少し違う方にも企画をお願いしようと思っています。これまでもメンバーでない人の企画を時々はしていたのですが、来年からは徐々に年に一定数は委嘱の企画で進めていきたいと考えています。最近は民間画廊も新潟市に増えてきました。その中で私たちはNPO画廊という性格を強めていきたいですね。他の画廊でも、美術館でもなかなか紹介の難しい作家の展示を積極的に企画するような、既存の美術の場の間を繋ぐような場所にしていきたいです。

―美術館や他の画廊との差異を打ち出すということでしょうか。

大倉:なるべくいろんな人に来てもらえる、他の画廊とも美術館とも違うということを感じてもらえる場所にしていきたいのですが、まだまだ模索中です。他の画廊もかなりいろいろな企画をうつなど、いい活動をされています。新潟は美術館も複数ありますし、美術館ではないがいろんな文化的な催しをやる所も増えてきたので、他と違うというイメージを作っていきたい。そのイメージは、状況を見て、また実際に試みる活動を通じて、徐々に考えていきたいと思っています。
生活空間に美術があることを普通に
―大倉さんが目指す理想とは。

大倉:生活空間に近い空間、あるいは生活そのものの中に美術があることを普通なことにしていきたいです。現在構想中のものとして、絵を持って行って、場所にコーディネートするという事業を来年から試みる予定です。差し当たりイメージしているのは、病院の待合室とか店舗などですが。いずれは福祉施設とかにも広げられるといいと思います。

―これからは画廊、美術館に見に行くのではなく、美術館が出ていくという形ですね。

大倉:来ていただくのも大事だし、こちらから積極的に入っていくことも必要なのだと思います。新潟絵屋、砂丘館の魅力として、日本の伝統的な住空間と新しい美術作品のコーディネートされた場所であることがありますが、そのあり方を、もっと広げられるといいと思っています。

―美術をより広く、一般的にするのが新潟絵屋や砂丘館、ということでしょうか。

大倉:美術の魅力は作品とその内容だけでなくて、作品がある風景、光景にもあると思います。砂丘館で今展示をしている若い作家たち(小森はるか+瀬尾夏美 巡回展「波のした、土のうえ」in新潟)も、展覧会は展示という風景をつくることでもあると言っていますが、生活空間の中に美術作品がある風景を、ごく普通のこととして定着させていきたいと思っている。家の中に絵があったりとか、街の中に美術作品があったり、それが何かあまり特別なことでもなく、背景として見過ごされるわけでもなく、注意を向けながらも、その度ごとに美術作品を鑑賞するという改まった姿勢で観るのでもなく。
街の生活と美術を繋げる
―2018年には「水と土の芸術祭」もあります。「普通のこととして定着する」ための活動をされている大倉さんから見て、「水土」はどのように映りますか。

大倉:芸術祭がまちづくりや活性化の一手法として盛んになってきたのは、この画廊を始めた頃にはなかった現象なので、新しい時代がやってきたのだなと思います。近年の芸術祭ではインスタレーション的な作品が中心になりごく普通の絵などが、逆に注目されにくくなりました。ギャラリーが関われない部分も出てきます。芸術祭は芸術祭なりに「アート」と最近言われる美術表現を生活の中に繋げていく活動になっていると思います。同じように画廊は画廊なりのやり方で、街の生活と美術を繋げていければいいのかな、と思います。協力できるところは協力しあって、とは言えそこに吸収されることもなく独自にやっていきたいですね。

―いわゆる「アート」との関わり方、ということでしょうか。

大倉:コミュニケーションの意味の重要性は感じています。2012年の芸術祭では「ものからことへ」ということが言われました。ただ、当然ですが、「もの」を作る芸術家たちも大事だと、これまでの美術の範疇の中で制作をしている人たちにも注目すべき表現者がたくさんいると思うので、そういう人たちをきちんとフォローするのも今のギャラリーの役割かなと思っています。今回私たちの画廊についてアンケートをとったところ、いろんな回答がきました。その中で、ある方は、美術館とか芸術祭を山の頂に例えれば、裾野のような活動をしているのが画廊だとおっしゃってくださって、そういうことかなと思いました。別に頂上を支えているというわけではないのですが、裾野は裾野なりに、存在が必要な場所だと思います。「絵屋」という名前は八百屋とか魚屋というのと同じように絵を並べて商う店というニュアンスをこめて、同じように気軽な感じで来てもらえる場所になれたらと思って始めました。しかし、最近はまだまだ敷居が高いと思われていることがわかり、その敷居をもっと下げる活動もしていきたい。そういう中で芸術祭と繋がれることもあるかと思います。芸術祭の他にもいろんな動きがあります。私たちも来年以降は企画展の開催以外の活動も模索していく予定です。その過程でほかの美術の動きとも繋がる活動も可能になっていくだろうと思います。
取材場所:新潟絵屋(平成29年5月16日)
ご紹介
○新潟絵屋
2000年 複数の有志により新潟市中央区並木町に開設された画廊。2005年 NPO法人、2015年認定NPO法人となる。2007年 並木町から上大川前通10に移転し建物を解体移築。
販売の見込みによって制限されすぎず、自由な個人の視点から構想される企画展が実現できる場になりたいとの思いから、会員制度による会費や寄付金で経営の一部が支えられている。
「見る人」の企画による「よい美術」「よい作家」を紹介する展示を常時開催するとともに、作品の額装や個人宅での飾り方の相談を随時受付。
大正期の町屋を改装した優しい空間で作品を楽しめます。
【開廊時間】11:00~18:00
※各企画展の最終日は17:00まで。
【休廊日】 毎月1日、11日、21日、31日※(2017年末まで)
※不定休となる月もあります。2018年からは休廊日も変更になる予定です。ホームページ等でご確認下さい。
【住所】新潟市中央区上大川前通10番町1864
【問い合わせ】TEL・FAX 025-222-6888
Email info@niigata-eya.jp
【HP】http://niigata-eya.jp/

○砂丘館
旧日本銀行新潟支店長役宅、通称「砂丘館(さきゅうかん)」は、昭和8年に建てられた近代和風住宅。日本銀行が直接設計を行った、完成度の高い住宅であり、歴代日銀支店長が居住・執務、そして重要な賓客を招く場として使用されてきました。戦前の日銀支店長役宅で現存するものは、新潟と福島(昭和2年)の2つのみ。新潟絵屋が指定管理者の一員として、自主事業を担当。年間を通じさまざまな企画展示、伝統文化・芸能から現代芸術までの幅広い催しも行われています。
【開館時間】9:00~21:00
【休館日】月曜日(祝・休日の場合はその翌日/その日が土・日曜の場合は直近の火曜日)
年末年始 12/28~1/3
【問い合わせ】TEL・FAX 025-222-2676
E-mail sakyukan@bz03.plala.or.jp
【HP】http://www.sakyukan.jp/


○新潟絵屋 活動紹介
・「eto」
 インタビューの中でも出てきた、絵による日常空間のコーディネートです。病院の待合室など、人の集う場所に絵をお届けし、場所の雰囲気に応じた作品の選定、コーディネートをしていただけます。個人宅のリビングなども対応可能とのこと。絵を飾りたいけどどのような絵が合うのか分からない、と思われている方はぜひ一度ご相談ください。
http://niigata-eya.jp/2754

・「Open eya」
 これまで自主企画展の場となっていた新潟絵屋の展示室が、個展やイベントを開催したい方に貸し出されます。個展やグループ展を初めて開催される方、経験が少なく不安に思われている方には、画廊の特性から実際の展示作業についても担当の方から心強いサポートをしていただけるので安心です。発表の場を探している方、訪ねてみては。
http://niigata-eya.jp/2942