【インタビュー】郷土芸能の伝承と、新たな繋がりを求めて

  • 投稿日:
    2020.06.23(火)
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    ゲスト
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    インタビュー
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    伝統芸能
新潟市農村文化協議会 山川潤さん(左) 呉井善行さん(中央) 馬場大輔さん(右)
新潟市内には、神楽舞や獅子舞など、農村部をはじめ地域に根差した郷土芸能団体が多く存在しています。
アーツカウンシル新潟の文化芸術基盤整備促進支援事業に採択、助成を受けて設立された「新潟市農村文化協議会」では、市内各地の郷土芸能団体の地域連携や人的交流をめざし、様々な活動を展開してきました。今回は、同協議会のメンバーである山川さん、呉井さん、馬場さんにその活動についてお話を伺いました。
新潟市農村文化協議会は、どのような活動をされてきたのでしょうか。
馬場さん:
新潟市内には多くの郷土芸能団体が存在し、多様な郷土芸能が保存継承され、なかには市指定無形民俗文化財となっているものもあります。しかし、多くの団体では継承者の高齢化、後継者の不足という課題を抱えており、近年、すでに継承が困難となっている団体もあると聞いています。また、神事と深く結びついていることから、なかなか自地域以外の団体と相談や、情報共有できる機会がありませんでした。そのような課題を解決するため、私の勤務している(一財)北方文化博物館が中心となり、平成29年度に同会を設立しました。
設立のキックオフミーティングや市内郷土芸能団体意見交換会などをとおして、様々な団体にお声掛けし、会員になっていただきました。また、広島県の「夜神楽」を視察し、その活動について関係者から話を聞くことができました。他県の取り組みを勉強できたことは、とても良い刺激になりました。
アーツカウンシル新潟からは、平成29年度から令和元年度までの3年間にわたり助成を受けましたが、視察先の選定や協議会運営への助言など、資金的支援だけでない“伴走型”の支援を受けることができ、活動の幅が広がったと思います。
協議会を立ち上げて・参加して、良かったと思うことは?
呉井さん:私は、新潟市秋葉区(旧新津市)の栄町神楽に所属しています。この協議会に参加して良かったと思うことは、他団体の練習をお互いに見学し合えたことかな。江南区の棧俵神楽(サンバイシカグラ)さんのところに行ったときは、獅子頭を作るところを見せてもらいました。今まで興味はあっても、自分だけでは行動に移せなかったことを、協議会が音頭をとってくれました。そこで見てきたことを自身の団体に話すと、みんな「すごいね」と言ってくれる。こういう体験はとても貴重ですし、皆も興味があるのです。
山川さん:私は、西区の赤塚太々神楽保存会に所属しています。この協議会に参加するまでは、あまり地域外を見ようとしていなかったかも。協議会をとおして知らなかった団体と交流を持つことができたのは良かった。まだ協議会に入っていない、隠れた団体をどのように勧誘するのか、これからの課題かな。
馬場さん:まず、他の団体のことを知ることが大切だと思っています。どんな想いで練習をしているのか、見学しに行くとよくわかる。すごく熱い想いを話してくれる。そういうのを感じられるのはすごく楽しかったです。「交流」はこの協議会を作った大きな理由なので。
後継者の育成について、どのように考えていますか?
呉井さん:僕らが小さい時は子どもがたくさんいて、みんな子どものころから神楽に取り組んでいました。でも、今は少子化で子どもが少ない。僕らの頃のやり方が通用しなくなってきていると思います。僕らの頃は同世代で練習に来ている子が10~20人位いました。今は3人とか。なので、子どもの頃に神楽を始めて、大人になるまで続ける人はほとんどいない、という状態。ものすごく危機感があります。
この協議会を始めて感じているのは、横のつながりの重要性です。例えば、お互いの本番(祭り)に出演したり、手伝いに行ったりすることで仲間を増やす、とか。個々の団体にこだわるのではなく、「新潟の神楽」という大きなくくりで捉える。協議会が団体同士をつなげるプラットフォーム、そんな存在になれればと思います。
みなさんが感じる、神楽や郷土芸能の魅力とは?
呉井さん:私の地区の祭りでは、締めくくりのとき、神社前の大きな交差点で七台の屋台が集合し円をつくり、何百もの人が見ている真ん中で踊る、というシーンがあるのです。そこで踊ると、ハマっちゃうんですよ。踊りきってから、獅子を脱いだ時の景色がすごくキラキラしているんです。それを経験しちゃったら、やめられないです。
それで、これ以上の経験は無いな、と思っていたのですが、7年前くらいに自団体の総指揮をやらせてもらうことになったのです。1年目は、なかなか上手く指揮をとることができなかったけれど、2年目からは周囲も一生懸命ついてきてくれて。ひとつの祭りが終わった瞬間、泣けるくらい嬉しかったんです。みんなで作り上げた感動はひとしおでした。もう、やみつきになる経験をいっぱいさせられて、今ここにいます。

馬場さん:やりがいは、やっぱり「そこに来た人が喜ぶから」。僕は人を喜ばせるのが好きなんです。神楽の人たちとステージを作るのが好きで携わっているのが、北方文化博物館で実施している「横越でんでん祭り」です。地域の子どもたちに郷土芸能を伝え、未来に残していきたい、そんな想いで運営しています。

山川さん:神楽を見にきた子どもたちを喜ばせたい、という気持ち、わかります。うちの祭りではお菓子を投げるので、子どもたちも、大人も楽しみにしています。それで興味をもって、自分達も神楽に参加してくれるようになったら嬉しい。地域で何かすることが少なくなっているので、近所同士のつながり、子ども同士のつながり、神楽をとおして生むことができればと思います。
今後の協議会の活動について教えてください。
山川さん:もっと神楽の現状について知りたいと思っています。

呉井さん:横のつながりを強くするため、もっとたくさんの団体に参加して欲しいと思っています。今年度はお互いの練習を見学したことがきっかけで仲良くなりました。その後、自分の町内の祭りに参加してくれるなど、交流が生まれた。足を使った交流が大切ですね。そして、各団体をうまくつないでくれる人材がどこかにいるのではないか、と思っています。
取材場所:北方文化博物館(令和2年3月17日取材)
〇ご紹介
新潟市農村文化協議会では、新潟市内の神楽舞、獅子舞をはじめ郷土芸能に関する情報の収集・集約・発信・活用、そして今後の発展に向けた活動として、ウェブサイト「新潟神楽」を運営しています。協議会所属団体の紹介や、イベントの情報を掲載しています。ぜひご覧ください。