【事業アーカイブ】11/17 語りの場vol.26「場を開き、まちへ広げる ~旧グッゲンハイム邸の活用を通して~」

  • 投稿日:
    2021.12.20(月)
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    事業レポート
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    その他
文化・芸術の分野で活動する方々をゲストとしてお招きする、トークシリーズ「語りの場」。市民のみなさんが新たな視点や価値観と出会い、知り(学び)、自らの活動を広げていくことで、魅力あふれる活動が、まちに根付いていくことをめざしている。

11月17日は、テーマを「場を開き、まちへ広げる~旧グッゲンハイム邸の活用を通して~」と題し、ゲストに音楽家で旧グッゲンハイム邸管理人の森本アリさんをお招きし、1時間半にわたり、これまで取り組まれてきた様々なプロジェクトをご紹介いただいた。
語りの場vol.26「場を開き、まちへ広げる ~旧グッゲンハイム邸の活用を通して~」
開催日:令和3年11月17日(水)19:00~20:30 ※Zoomにて開催
ゲスト:森本 アリ(音楽家/「旧グッゲンハイム邸」管理人)
ゲスト: 森本 アリ(音楽家/「旧グッゲンハイム邸」管理人)
普段は音楽家と、神戸市・塩屋の築110年の海辺の洋館「旧グッゲンハイム邸」の一風変わった運営をする管理/運営人の2足のわらじ。「三田村管打団?」などを率いるほか、知的障害者と即興音楽家が融合し大家族バンド化した 「音遊びの会」主要メンバーでもある。また、塩屋の未来を考えるようになり「シオヤプロジェクト」、「塩屋まちづくり推進会」で活動。単著に「旧グッゲンハイム邸物語 未来に生きる建築と、小さな町の豊かな暮らし」(ぴあ 2017/3/15)がある。塩屋の町に100年後200年後もあまり変わらないでいて欲しいと願う。
旧グッゲンハイム邸の運営
旧グッゲンハイム邸という、築110年位の海沿いの洋館の管理人を始めて15年になります。イベントスペースとして運営しており、コロナ禍以前はスタンディングで150名を収容していました。少人数向けの前衛音楽のコンサートもあれば、定員150がすぐに売り切れるメジャーな演奏会、ヒップホップに落語、占い、コスプレの撮影会、結婚パーティーまで、なんでもやります。平日昼間は公民館的な利用もあって、ピアノや声楽などの音楽系のレッスンに、ヨガやリンパマッサージもやっています。基本は貸館で、運営は各教室です。
神戸市・塩屋 町の特徴
神戸市・塩屋は、海あり山あり自然環境の豊かな町です。海苔の養殖が盛んで一次・二次産業が身近です。神戸の中心から電車で20分、大阪まで40分と多くのサラリーマンが仕事に行く環境がある一方で、自営業の方も多くいます。家賃が安いこともあって、音楽や美術をやっている人も多く住んでいます。

谷間の密集市街地の僅かな平地に商店街があります。メインロードは幅2m程なので、傘をさしてすれ違うためには言葉を発さないといけない、何回か会うと挨拶をしだすとか、そういう距離感が町のコミュニティを形成している大きな要素だと思います。

阪神大震災から26年、塩屋を含む垂水区は比較的被害が少なく、昔の神戸らしい町が残っています。震災後、公的資金による区画整理で一新された他の町をうらやむ声がある一方で、僕はこの町の小さなごちゃごちゃとしたボリュームをそのまま残していきたいと思っています。海側の国道沿いがマンションに建て替わるのは経済的な力で止められませんが、山側は、建物は外観やボリュームを維持したまま、リノベーションされ熟していくと良いなと思っています。

今、塩屋まちづくり推進会で景観ガイドラインを作っていますが、拘束力がなくてもモラル的なことをしっかり見せて、心に訴えるものにしたいと思っています。心に訴える時に、広義のアート、言葉や映像、写真、音楽は、伝達手段としてものすごくスピードが速いので、ガイドラインを作る上でもアートの力を活かせればと思っています。
地域資源を見つけ、楽しむ シオヤプロジェクト
塩屋には驚くような楽しい光景がたくさんあります。まずは坂。(塩屋の町は)立体感がすごい。郵便局のバイクが上がっていくだけでも映画的です。望海台団地と名付けられた地区では、各家に3~4mの高低差があって、どの建物の2階からも海を望むことができます。
こういう地域資源を楽しむのが「シオヤプロジェクト」で、僕が主にしている試みは「レディメイド・シオヤ」と名付けています。現代美術の作品で、マルセル・デュシャンの「レディメイド」というシリーズがあります。ギャラリーに便器などの既製品を置いて、それにサインをして作品だと言うものですが、その意味もありつつ、“Already made”、既にある風景・現象・もの・ことをただ撮っただけという写真のプロジェクトです。フリーペーパーにもしています。

シオヤプロジェクトでは様々なワークショップを積み重ねてきました。初めの頃は歩くことを主にして地図を作る「地図プロジェクト」で、○○町○丁目のような数十分で歩けそうなエリアを一本一本の道を確認しながら1日かけて歩いていました。
塩屋の路地という路地を歩き尽くし地図を完成させたので、今度は「勝手にまち探訪」として、月に1度神戸市内の興味深い小さな町の探索を始めました。「地図プロジェクト」の頃は数人の参加でしたが、今は30人弱の参加があります。僕らが三重苦と呼んでいる「長い」「平日」「有料」の設定にしてから、却ってプロジェクトへの参加者が増えています。参加のハードルを上げると参加者が増える、そういうことが最近多いのかもしれません。

「まちづくり」という言葉が好きではないのですが、「まち系」のことを始めたのは「塩屋百人百景」という写真のワークショップと展示が初めてでした。その後、塩屋の古い写真を募集して展示して、多くの人が送ってくれた写真をまとめた『塩屋百年百景』という写真集を作りました。『塩屋借景』は、シオヤプロジェクトで依頼した、塩屋を題材に制作されたアートワークを集めたものです。小さな町の画期的な試みです。

今、垂水区の依頼で、初めてお金をもらって塩屋のPR動画を作っています。プロジェクトのメンバーは47歳の私と40歳前の数人、そこに、旧グッゲンハイム邸事務局が入る建物内のシェアオフィスに入居したデザイナーや、展示や仕事をきっかけに引っ越してきたクリエイターが入っています。「まち系」に興味がある神戸大学の学生も関わり始めて、20代から40代のメンバーが参加し、自然と世代交代も進んでいます。
まちを使い倒す しおや歩き回り音楽会
最後に紹介する2014年から2016年に4回行った「しおや歩き回り音楽会」は、テーマパークのようにまち全体でアトラクションが繰り広げられる、まちのあちらこちらから音楽が現れるような音楽会です。

集合場所から100m先のビルの屋上から鳴り響くファンファーレで始まり、音で案内するナビゲーターに付いて行くと、海辺で、お店で、マンションの駐車場や屋上で、人の家の庭やベランダをステージに見立てて、それぞれの場所で様々な演奏が行われました。出演者はヒップホッパーから民謡までの老若男女で、ただ一つのルールは塩屋在住者がメンバーにいること。2時間30分で32組が演奏をしました。まちをいじり倒す、使い倒すコンサートです。

2016年の開催時に、3m幅の道路に参加者が溢れてしまい、これ以上のことはこの町ではできないと思い、この企画は終わりました。エネルギー切れでやめるのではなく、一番エネルギーが高まったところで終わるのもすごくいいなと思っています。
参加者アンケートの感想より
今回の講演では、この短い記事では全てをご紹介できないほど多くの取り組みをお話いただきました。参加された皆さまも、様々なヒントを得られたようです。記事のまとめに代えて、参加者アンケートで寄せられた感想の一部をご紹介します。

・塩屋のまち、ひとがとても魅力的に感じました。また、アーティストがどうかに関わらず、とても丁寧に近所づきあいをされながら、イベントを紡ぎ出していることにとても感銘を受けました。

・塩屋愛を感じました。そこにある何気ない価値を見出し、活用し、自然体で日常的に地域に溶け込んでいく様子は文化的な環境づくりの理想形のように思えました。

・興味深いお話で、トピックも多く地域に根ざしながら地域の方も巻き込んでいくイベント作りの具体例が伺えてとても有意義でした。