【事業アーカイブ】7/22 語りの場 Vol.30 「なぜ、地域でアートに取り組むのか? ~新津と西会津 2つの地域の取り組みから~」

  • 投稿日:
    2022.09.05(月)
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    ゲスト
  • 記事カテゴリー:
    事業レポート
  • ジャンル:
    地域文化拠点
文化・芸術の分野で活動する方々をゲストとしてお招きする、トークシリーズ「語りの場」。市民のみなさんが新たな視点や価値観と出会い、知り(学び)、自らの活動を広げていくことで、魅力あふれる活動が、まちに根付いていくことをめざしている。

7月22日は「なぜ、地域でアートに取り組むのか?」と題し、西会津町の矢部佳宏さんと、秋葉区新津の土田貴好さん・小倉藍歌さんをゲストに招き、それぞれの地域での取り組みを共有し、意見交換や質疑応答を行った。新津の「FLAT」での現地開催に加え、オンライン配信も併用し、国内外の多くの方にご参加いただいた。
語りの場vol.30「なぜ、地域でアートに取り組むのか? ~新津と西会津 2つの地域の取り組みから~」
開催日:令和4年7月22日(金)19:00~20:30

会 場:FLAT(秋葉区新津本町3-8-2)、zoomオンライン配信併用

ゲスト:矢部佳宏(一般社団法人BOOT代表理事/西会津国際芸術村ディレクター)
    土田貴好、小倉藍歌(あるてぃすと/NEphRiTE dance company)
会場(FLAT)の様子

矢部さんの取り組み

西会津町は日本の未来
西会津町は新潟県境で隣は阿賀町。昔話のような雰囲気の町で、面積は東京23区の半分弱、人口は5,800人で年に200人減っています。高齢化率48%は福島県で下から4番目。私が住む奥川地区は町ができた頃は4,000人でしたが今は600人、50歳未満は30人もおらず子どもは10人程。今は日本全体も人口のピークを過ぎましたが、町は1954年が人口のピークでした。今日本で起こっていることは、町では昭和29年から30年代に起こったことです。私の地域が未来で、私は未来から来たと思ってください。

課題は圧倒的な人材不足。職業が限られて人口減少のスパイラルに入り、「不便=悪い」という価値観が強まる、さらに政治が大多数の有権者=老年人口に沿うことで未来を作る予算が減る。世代交代できず若者がいなくなり、受け身の消費者マインドが完全に浸透して滅びのサイクルに入る。これをどうにかするには主体性や能動性が大切と言われ始めていますが、主体性を持って能動的に動くのがアーティストの特性で、起業家も同じです。僕はアーティストと起業家が地域を再生すると思いました。
クリエイティブな人材を集めるために
2013年から西会津国際芸術村で働きながら、とにかくクリエイティブな人を集めるしかないと思いました。絵がうまいとかデザインができるとかじゃなく、自分で問題を発見して解決に取り組める人、あきらめないで探り続ける人、いろいろな選択肢を増やす人、走りながら考えられる人です。

そのためには未来の可能性を感じられるかどうかだと考えて、「故くて新しい未来」というキーワードを設定しました。風景や地域の仕組みが江戸時代のまま残っているから、里山の知恵と暮らしをアップデートすることで環境時代の新しいライフスタイルを作れるんじゃないか、ということで、「自然と人間の共生」をテーマにアートやデザイン活動をやっていく。これに基づき、ひと、まち、仕事づくりを同時並行的に進めるために「クリエイティブ拠点ネットワーク構想」というのを自分で勝手に作りました。拠点を作って繋げればいろいろな活動が生まれてくると仮定し、芸術村は「ムラの拠点」で、同時にオセロのように、僕の家が「ヤマの拠点」、町中が「マチの拠点」として、これを強くしたら間が同じ色に変わるという理論です。
3つの拠点とそこでの取り組み
➀ムラの拠点
西会津国際芸術村では、木造校舎でアート展示やワークショップなどをやっています。滞在アーティストの情報発信により数珠つなぎに人が来ます。町民が主役の企画もやって、誰も表現しない、億劫になって何も言わなくなったところから町は衰退していくので、町民が「自分が表現しても良い」と思えたり、自己表現を最大化できるようにしています。また、外の人と内の人が融合する機会も重要で、祭りで良く起こるのですが、衰退してきたので、町で一番有名な大山祇神社で「草木をまとって山のかみさま」という新しい祭りを作りました。華道家と一緒に西会津の自然を体に纏う原始的な祭りで、これも10年目で神社の祭りのメインの一つになりました。
②ヤマの拠点
僕の家の集落は360年前の江戸時代にできて、それからずっと2軒なので限界集落かどうかもわかりません。ここで築130年の蔵と小屋を一棟貸しの宿に改修しました。アートとの関わりがより出てくるのがこの襖。この10年出ケ原和紙の復活活動を一緒にやっているアーティストに襖を漉いてと頼んだら、アーティストの発案で僕と弟の二人が宿の裏の池の中に入って紙漉きをやることになりました。完成イメージは宿の前から見える山並みと雲海です。曾祖父が先生だったので小屋に大量の教科書が残っていて、それを池の水で溶かし、19代目の僕が漉くという、この土地ならではの資源を完全に活用した作品ができました。絶対的な価値と呼んでいますが、この襖はここにあるから価値がある。地域活性化も同じで、そういうものをいっぱい作っていくことが、そこに人が訪れるという結果になる。これができたのはアーティストのおかげです。
③マチの拠点
宿場町の面影を残す建物が売りに出されたので保全活用するからと頼んで、町の一等地ですが100万円で売ってくれることになり、僕の法人の役員が買ってイタリアンレストランに改修し、人気店になりました。こんな感じで拠点ができて地域おこし協力隊が入りはじめたのでもう少し町中に力を入れようと、いろんなアーティストと一緒に「銀河鉄道の夜」を題材にしたツアーを組んで、5軒の空き家で演劇をやりました。すると、本当に銀河鉄道が走っているかのように町を歩くことができて、寂れた町の雰囲気も魅力的に思えました。
取り組みの成果とアーティストの役割
この3年ほどでいろいろな拠点や場所ができて、行政も町をあげて田舎を売ろうとなり、ちょっとずつ観光になり始めています。移住者も70人以上いて、文化を起点に人が来るようになったことも1つの成果です。もちろん仕事も大事ですが、何で西会津に来るのっていう理由作りもすごく大事で、その理由は一生懸命作らないと無くなっちゃうんです。

まとめると、少ない人口、若者で田舎を支えるための三つのキーワードが出てきて、「故くて新しい未来」。収縮時代なのであるものを活かすしかないです。「おせっかいな組織」。社会課題が山積みなので、誰もやっていない領域に積極的に取り組んで仕事にする組織が必要です。「自分事」。人口が減ると1人の役割がどんどん増えます。これが楽しくないと正直出ていっちゃう。だから、自分がやりたい、楽しいと思うことと社会課題をマッチングしたり、個々の活動を活性化していくしかありません。私益(自分事)から始まることが公益と重なるとエネルギーが大きくなるので、そこを意識していきます。その中でアーティストは、みんなが見過ごしていたその土地の価値を見つけ出してくれる。だから、それをどう生かすかはその土地の人や、アートじゃなくてむしろデザインの人になってくると思います。

土田さん・小倉さんの取り組み

ダンサーとしての生き方の模索
2017年にコンテンポラリーダンスを基軸にしたチーム「NEphRiTE dance company」を結成し、結婚を機に勢いで新潟に来ました。どこでも踊る、どんなことでもダンス化するということを武器に地域の方と話を繋げていきましたが、新潟でダンサーとしてどう生き抜いていくかかなり悩み、自信も手がかりもなかったので、文化庁の新進芸術家海外研修制度を利用して、2018年から2年間、二人でベルリンに行って来ました。ナチスの負の歴史をアートで伝え残したり、市民が日常的に劇場に通って感想を言い合う様子を肌で感じ、コンペティション等へ参加して様々な人種や表現に触れ、個性という言葉を自然に感じました。あとはレジデンス。西会津のように各地でアーティストの受け入れ体制が作られていて、出会った人たちを日本に呼びたい、そういう環境を作りたいと感じるようになりました。
アートと地域を繋ぐ「あるてぃすと」
研修中に自分はどう働き、生きたいかを考えていて、帰国して2021年にアートと地域を繋ぐ「あるてぃすと」というチームを作りました。急に「ダンスしませんか」ではなく、まずはシンプルに体を動かすことの魅力や大切さを伝えるという視点から活動を広げています。キッズチームでは自分の身体の魅力や特性を最大限感じて欲しいという理念で子どもたちと接しつつ、アーティストと触れ合うことで子どもたちが多様性を感じ、選択肢を増やす環境ができたらと思っています。まちづくりの活動もしていて、秋葉区に外から人を呼べる環境や滞在できる場所を作りたいという共通の思いのもと「パッチワークAKIHA」というまちづくり会社を発足しました。また、デザイナーさんとのご縁で活動や思いの整理を助けてもらったり、今日の会場のFLATという、商店街の中で物理的に人目に触れる拠点を持つことができました。
取り組みの手応えと今後の課題
コロナ禍でも2年で13名ほどのアーティストを招待できて、地域の方にも外からアーティストを呼ぶことでの発見や出会い、子どもたちへの影響も喜んでもらっているのかなと思います。また、招待したアーティストも純粋にアート活動に取り組めて、地域の方々の反応が近く、達成感を感じてくれる部分もあるなと。

今後は本格的にゲストハウスに向けた動きをまちづくり会社と共に進めていきたいと思っています。課題は農業や食等の他ジャンルとアートがどう連携していけるか。そして、いつも純粋にアートの活動をすることと経済のバランスが難しいと感じています。

意見交換

10年間の継続した取り組みで成果を生みだしている矢部さんに対して、活動開始から2年で今後が期待される土田さんと小倉さんのお二人が、現在の課題や問題意識について尋ねる形で意見交換を行った。

小倉:
活動への投資を効果的に次につなげるところが難しいのですが、アートと経済の関係など、感じる部分はありますか。

進行:
アーティストと、アーティストを地域に呼ぶ側の立場の違いはあると思いますが、例えば、西会津に移住したアーティストの方々は、どうやって生活しているんでしょうか。

矢部:
いろいろじゃないですかね。そもそもプロか、アートでご飯を食べているかという話は別で、西会津に来る人は普段別に仕事をして、アートもやっていますという人も多いです。
そもそも経済規模が大きくないとアーティストにお金を払うことが起こりにくい。人が減る状況では外貨を獲得して文化にお金が回せる仕組みを作らないと地域が沈んでいく。今はそれを止める段階と思っていて、今は何でも稼いで暮らせば良いと。ただ、文化を作る行為を続けないと地域が悪い方向に行くので、アートと経済という話は大きいですがとても重要で、これから作っていかなければと考えています。僕も現状はアート活動を継続するために投資し続けている状態。稼いでアート活動にお金を払う。それを多くの人がやるようになったら、地域が変わるかもしれませんね。



土田:
地域に根差したアート活動では、地域の方から何らかの形で参加してもらうことが大事だと思いますが、何かやりたい、コラボしたい、参加してほしいと伝える場面が難しいと感じています。そういった時にどうお話していますか。

矢部:
難しいですよね。言葉で伝えられるように頑張るけど、伝わらない時は見てもらうしかない。結局、慣れはとても大事だなと。「草木をまとって…」は、1年目は何だあいつら、2年目はああまたか、3年目で知ってるよ、4年目には参拝客が初めて手を合わせ、5年目で僕らも疲れたって言ったら、地域の人が続けてと言い始め、6年目でちょっとお金を貰えて。徐々にしかないところはあります。
参加者アンケートより
・西会津での空き家を活用し地域の伝統文化と融合させた施設やイベントの開催など様々な取り組みをされているお話を聞き、とても面白く今後自分の活動していく上での参考にもなりました。

・普段は触れないような言葉や想いが聞けたのと、ゲストの方のバランスがよかった。10年以上やってきた矢部さんと駆け出して2年目くらいの土田さん、小倉さん。矢部さんのお話だけだと遠い未来のお話に聞こえてわからない。土田さん、小倉さんのお話だけだとわからない、わからないが多い。けど、二つのお話を繋ぐと、少しだけ自分事として聞く事が出来る。

・テーマに興味と共感があり、聴講しました。2つのプレゼンテーションとても興味深く拝見しました。限られた時間なのでプレゼン時間をもう少しコンパクトにした上で、課題抽出してそれについてディスカッションした方がテーマを深めていけるのではと思いました。