本年2017年英国文化都市(UK City of Culture)であるキングストン・アポン・ハル市を視察訪問しました。正味2日間という短期の現地滞在でしたが、年間を通じた大きなプロジェクトに携わるディレクターやイベントを推進する議会関係の方にお話を伺い、公費を投じて文化イベントが行われる行政的な意味や考え方について改めて考える機会となりました。
今回、新潟市から英国ハル市へ向かった背景を少しご説明します。昨年冬、オリンピック・パラリンピック文化プログラムの意義や取り組みの理解を広げるためのシンポジウムが新潟市で開催されました。そこでの登壇者のお一人、ブリティッシュ・カウンシル湯浅真奈美氏のお話しのなかで、英国内では2012年開催ロンドンオリンピック・パラリンピック後の文化政策の動きとして特に地方都市再生が注目されているという指摘がありました。2017年のUK City of Cultureに選ばれたハル市はその代表例です。そこでのご指摘をきっかけに(偶然にも新潟市はハル市と都市間の友好関係にあったため)、この機会にと、今回のハル市視察実現となりました。
あくる朝、現地通訳をいただく福島さんとの初顔合わせと打合せを行いました。(福島さんはダラム市にある大学でリサーチアシスタントをされている研究者の方です。)
その後、UK City of Culture 開催事務局のあるオフィスへと向かい、フェスティバルのエグゼクティブディレクターであるフランチェスカ・ヘギー氏にお話しを伺います。
Q.2012年ロンドンオリンピック・パラリンピック以後の文化芸術に関わる 人員体制や資金調達についてお聞きできますか。
A.
・ロンドンオリンピック・パラリンピック以後は文化芸術に関する予算が 削減傾向にある。
・政府の投資は福祉や娯楽(福利厚生)の部分(医療費削減の目的をもっ たもの)に大きくあるため、文化芸術がそのようなことに効果があると いう意義をたて、資金獲得を行う。
・地方の企業による文化芸術への投資は増えている。
以上、抜粋となりますが、ヘギー氏のお話しから、Hull UK City of Cultureを通じてハル市が目指しているものが、人や社会の変化だということがよく伝わりました。また、文化芸術を通じて「変化」を作り出すということが行われているのだという点について、新潟市で開催されるイベントなどを省みつつ、改めて深く考えさせられる機会となりました。
ヘギー氏へのヒアリングを終え、午後は市役所のハローウェイ氏の案内でハル市内を歩いて周りました。
今回 UK City of Culture HULL2017開催中のハル市を訪れ感じたことは、社会課題を改善しようという目的が明確にハル市の文化政策の中心軸にあるということです。一年間のフェスティバルを通じて公的資金を使用するアートプログラムにおいては、観光等シティプロモーションに加え、積極的に地域内の自己認識を高め自信を創り出す成果が考えられているようです。その具体的な例として、今回偶然日程的に視察することのできた演劇プログラム「DEFIANCE」などの取り組みとして表れているように感じました。
地元で活動を行う世代の異なる市民劇団の共同作としてできた本公演については、地元市民自身のためのプロジェクトとして、独特な熱気を帯びた公演となっていました。(残念ながら、セリフの聞き取りは難しかったのですが…)10代から20代の若者世代と、彼らの祖父母世代に近い高齢世代が劇の中で互いの不満、怒りのような「本音」をぶつけ合っている様子、会場からは両世代に対する共感の反応、そして時を経るなかで会場全体に理解につながる熱気と笑いが生まれていることにわくわくしました。
この演劇プロジェクトの経験は、地域社会に新しいコミュニケーションを生み出したのであろうことが、その場に居合わせた私にも理解できました。
また、この機会では、コミュニティに関わるアートプログラムはやはり「質や成果」が問われうるのだという点で確信のようなものも得られたと考えます。地域社会に関わって「エクセレント・アート」を作り出せるアーティストやコーディネーターの存在についても、新潟に持って帰り考えていきたいと思いました。